サンプリングと本歌取り

自由と 気持ちよさ 満ちた MUSIC 、Hiphopが好きなんですけども、好きな要素の一つがサンプリングです。ヒップホップって、もともとは楽器を使わずレコード2枚を2つのターンテーブルに乗せて、既存曲の一部をつないでトラックを作る、みたいなことをして作られた音楽なので、元ネタ(つながれてるレコードの曲、英語では sample とか sampling source とかいいます)があるんですね。貧しくて楽器が買えなくて、みたいな理由から生まれた手法ですが、これがとても素敵で、今でも基本的に全てのヒップホップの曲には元ネタがあるんです。

例えば分かりやすいところだと、

↑この Isaac Hayes の1970年の曲、 Ike's Mood の1:45くらいから始まるピアノのフレーズが、


Mary J Blige の I Love You (1994) とか、


Foxy Brown の (Holy Matrimony) Letter from the Firm (1996) とか、


Cormega の Beautiful Mind (2004) とか、たぶん他にもいろいろありますが、サンプリングされてるんですね。

これは分かりやすいですが、1秒にも満たないサンプリングもあって、1曲に数十曲の元ネタが入ってることもあって、「わ、今の『イエー!』聞いたことある!」みたいなことになって面白いんです。というか気持ちいいんです。元ネタに気づくっていうのは、当然その曲を作ったミュージシャンと同じ曲を聞いていたことを意味するわけで、いきなり、なんていうか、体験を共有する仲間意識、みたいものを感じるんですね。これって和歌でいう本歌取りだと思うんです。またしても内田樹ですが、小説における本歌取りについて、


「先行作品を踏まえている」という事実それ自体が読者に対する「コールサイン」として機能するということである。書き手から読者への「コールサイン」はつねに「ダブル・ミーニング」として発信される。表層的に読んでもリーダブルである。でも、別の層をたどると「表層とは別の意味」が仕込んである。その層をみつけた読者は「書き手は私だけにひそかに目くばせをしている」という「幸福な錯覚」を感知することができる。
To the happy few.
自分こそその「幸福な少数」であるという自覚ほど読者を高揚されるものはない。すぐれた作家はだから必ず全編にわたって「コールサイン」を仕掛けている。すぐれた作家は「わかりやすいコールサイン」から「わかりにくいコールサイン」まで、無数のレベルで「めくばせ」を発信する。そして、どのレベルのコールサインであっても、受信した読者は、自分は凡庸な読者たちの中から例外的に選び出された「幸福な少数」だと信じることができる。それでよいのである。真にすぐれた作家はすべての読者に「この本の真の意味がわかっているのは世界で私だけだ」という幸福な全能感を贈ってくれる。そのような作家だけが世界性を獲得することができる。「コールサイン」のもっとも初歩的な形態が「本歌取り」である。(...全部読む


で、上の曲たちを聞いて、「あ!Isaac Hayesね!」っていうのって「この曲の真の意味がわかっているのは世界で私だけだ」という幸福な全能感をもたらしてくれるわけです。分かりにくいものであればあるほど気持ちいいんですね。

で、これの元ネタこの曲です、なんてことはCDなどには書いていないわけで、ラジオとかお店で元ネタがかかってるのを聞いて、ふと本歌に出会ったりするまで気づかないんですね。高校生の時なんかは、元ネタがかかってたりすると、お店の人に「この曲なんですか?!」なんて興奮気味に聞いたりしてやや驚かれたりして、メモして、京都や大阪までCDを買いに行ったりしてたわけです。数秒の元ネタのためにアルバム買って後悔したりとか。

で、今日、ふと De La Soul の 3 Feet High and Rising の Wikipedia のページを見て驚いたのですが、元ネタリストがあったりするんですね...。ググれば YouTube で視聴できて、iTunes で1曲ずつ買えて、なんだか、便利なような切ないような、です。

で、本歌取りの良さは、隠されたコールサインだけじゃなくて、だれでも知ってる曲が元ネタになってる時もそれはそれで別の意味でなんだか気持ちいいんですね。


そうそうそれで、ヒップホップがビジネスになると、こういうのは著作権の問題でCDになったりしないので、このスチャダラパーのテーマPt.1 なんかも、友達から回ってきたカセットテープを大事にダビングして、みたいなことしてたわけですが、ネットのおかげでいつでも見れるようになってるんですね。なんだか、嬉しいのか嬉しくないのかよく分からないですが。

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